[ トップ(日本語) ] [ top page (English) ]
[ 補正済みのSOHO/MDIデータを用いた(やや)高空間分解能での予測計算 ] [ English version of this page ]


2009年7月22日の皆既日食時の太陽コロナ形状の予測MHD計算

太陽の内部も含めて、コロナや太陽風領域はMHD方程式で良好に記述できます。そして太陽光球面磁場を境界条件として与え三次元・時間依存のMHD方程式を解くことで、磁場を観測した時期における太陽コロナの三次元的な立体構造を計算する事ができます。特に太陽近傍のコロナ領域は亜音速であるため、解析解を求めることが一般にはできません。ですから、双曲型偏微分方程式であるMHD方程式の時間弛緩を数値的に計算するという方法は、現時点でおそらく唯一の太陽コロナの三次元構造解を求める理論的アプローチです。
   太陽表面に当たる境界球面は亜音速領域です。ここに磁場その他の物理量について条件を設定するわけですが、固定端条件などの比較的簡単な条件を用いた場合、電磁音波の非物理的な振動などが発生し、安定して信頼できる数値解を求めることが難しくなります。そこで、ここでは垂直投影特性曲線法と呼ばれるものを応用しています。
   太陽コロナ計算そのものは(準)リアルタイムMHDシミュレーションとして、太陽観測衛星SOHOにより得られる可能な限り新しい磁場データを境界値に用い毎日行っていますので、この計算の結果を流用して今年の7月22日の日食時にどのようなコロナ構造が地球から見えるかをやはり毎日予測しています。太陽コロナの形状の予測は、太陽近傍のコロナ密度の視線積分値(下図左)と磁力線(同右)を描くことで行っています。米国太平洋夏時間の2時頃に計算を開始、朝7時頃(日本時間の午後11時頃)に図などが自動更新されます。

total solar eclipse 2009 左:7月22日午前1時(UT)での地球の位置方向(L0,B0)に沿って計算領域内でプラズマ数密度を数値積分した値を、Newkirkフィルタ関数という太陽近傍の急峻な密度勾配を補正する関数で規格化してあります。中央円形部分の灰色の濃淡は太陽磁場が開いて太陽風として流れ出す事が可能な領域(コロナ・ホール)と閉塞磁場領域(ストリーマ)の根元に当たる部分を表しています。
右:磁力線。見やすくするためコロナ輝度とよく対応する部分だけ描いています。中央部の青赤は太陽表面磁場極性の正負を表します。
   予測に使う太陽磁場データが順次更新されるので、 この動画 (mpeg;1.3MB)のように予想される形状は毎日変わります。はたして・・・?
total solar eclipse 2009 基本的には上図と同じですが、別な境界条件を用いています。同様の動画は こちら (mpeg;1.3MB)

上図では、地球と太陽の自転軸の向きが違う事を考慮し、天球の北極が真上方向に来るように撮像した場合と合うように図全体を(P角だけ)回転させています。 なお、MHD計算のスピードを優先するため、磁場データは球面調和関数で分解したのち低位(主値7まで)の成分だけを用いて再構成した磁場地図を使っています。実際の太陽磁場構造はもっと微細です。
   SOHO磁場データの処理にある程度の時間がかかるため、計算を始める時点から約24時間前までの間に測定されたデータは使われていません。ですから非常に大まかには、計算実行日の2日前の状態を計算していることになります。また、あまり大きくない計算機資源(8CPU,並列化はOpenMP)でも3時間程度で計算を終えることができるように、数値格子はやや粗め(大円角で概ね6度)にとっています。日食の予想についてはもう少し精度の高い計算を別途に補正済みのデータで行いました。
   さて、日食時のコロナの形状を予測する場合、地球から観測した場合に一番よく見える部分は太陽の中心からみて地球方向と90度の角をなす平面に近い領域です。一方太陽磁場については、太陽と地球を結ぶ線に近い部分(見かけの太陽円盤の真ん中近く)について最も精度良く観測できます。ですから、地球から見た太陽の見かけの自転周期である約27日の1/4の奇数倍(だいたい1,3,5,7週間)前に作成されたデータがコロナ形状の予測には一番適しています。



新規作成 : 平成21年5月28日、図などの最終更新日 : 同7月6日