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2012年11月13日の皆既日食時の太陽コロナ形状の予測MHD計算

国際標準時の13日、日本時間では14日に皆既日食が主に南太平洋で観測されます。皆既日食時にみることができる太陽外部を放射状にとりまくあかるい部分は太陽コロナとよばれています。このコロナや太陽風の領域はMHD方程式で良好に記述できます。そして太陽光球面磁場を境界条件の一つとして与えた三次元・時間依存のMHD方程式を解くことで、磁場を観測した時期における太陽コロナの三次元的な立体構造を計算する事ができます。特に太陽近傍のコロナ領域は亜音速であるため、解析解を求めることが一般にはできませんから、双曲型偏微分方程式であるMHD方程式の時間弛緩を数値的に計算してよりエネルギーの低い安定と考えられるコロナの状態の求めるという方法は、現時点でおそらく唯一の太陽コロナ三次元構造を求める理論的アプローチです。太陽表面に相当する境界球面は亜音速領域です。計算にあたりここに磁場その他の物理量について条件を設定するわけですが、固定端条件などの簡単な条件を用いた場合には電磁音波の非物理的な反射や振動などが発生し、安定して信頼できる数値解を求めることが難しくなります。そこで、ここでは垂直投影特性曲線法と呼ばれるものを応用しています。
   太陽コロナ計算そのものは(準)リアルタイムMHDシミュレーションとして、太陽観測衛星SDOにより得られる可能な限り新しい磁場データを境界値に用い毎日行っていますので、この計算の結果を流用して今年の11月13日の日食時にどのようなコロナ構造が地球から見えるかをやはり毎日予測する事ができます。米国太平洋夏時間の朝に計算を開始、だいたいお昼頃頃(日本時間の午前4時頃)に図を自動更新しています。この準リアルタイムの MHD 計算では、磁場データは球面調和関数で分解したのち低位(主値5まで)の成分だけを用いて再構成した磁場地図を使っています。実際の太陽磁場構造はもっと微細で複雑ですが、大局的な構造を決定する上で微細な構造の寄与はあまり大きくないと仮定して、空間的に荒い入力データを用いて太陽コロナ領域全体を計算しています。手持ちの計算機資源(8CPU,並列化は OpenMP)でも毎日一度は計算できるよう、計算所要時間短縮を優先し数値格子は粗め(大円角で概ね6度)にとっています。

* 空間分解能をを少しだけあげた予想計算を11月5日時点の太陽磁場データを使って行いました。この解像度での計算はこれが最後になります。低解像度での計算はとうぶん毎日続けます。・・あとは当日を待つのみ、なのですが、今現在の太陽光球面磁場は大局的な成分が弱く、ここでの太陽磁場を用いたモデルによる大局太陽コロナ構造の予想・再現はこれまで以上に難しいというのが実感です。・・・正直なところ、あまり当たる気がしない。



低い空間解像度であるかわりに最新のデータを使った計算(毎日米国太平洋時間で午後2時ごろ更新)
Eclipse on 2012 Nov. 13/14
(左から) STEREO-B 探査機,、地球、STEREO-A から眺めた太陽コロナの予想。図の上方向は太陽自転軸の北極側に対応。日食時のそれぞれの位置から視線に沿ってプラズマ数密度を数値積分し、太陽近傍の急峻なコロナ輝度の動径勾配を記述する関数のひとつで Newkirk 関数といわれるもので規格化した値をもとに、5太陽半径以内の領域について絵を作っています。中央円形部分の灰色の球は太陽表面をあらわします。そのうち濃い灰色はコロナルホール (太陽コロナ磁場が惑星間空間に対して開いておりプラズマが太陽風として流れ出す事が可能な低密度領域の根元にあたる部分) を表しています



Eclipse on 2012 Nov. 13/14
(左) コロナ輝度の図。基本的には上図中央と同じですが、地球と太陽の自転軸の向きが異なる点を考慮し、天球の北極が真上方向に来るように撮像した場合と合うように図全体を(P角だけ)回転させています。(右) 白い管のようなもので磁力線(2.5太陽半径内)を表現しています。すこし見づらいですが、中央部の青赤は太陽表面磁場極性の正負を表しています。左図とおなじく、天球の北極が真上になるように図を回転させています。



すこしだけ空間解像度をあげた計算を行いました。
入力データに反映される最後の観測:国際標準時で2012年11月5日12時頃
MHD 計算の終了:米国太平洋時間で11月5日の23時頃
(3x1 plot, Eclipse on 2012 Nov. 13/14)
格子数は緯度経度方向に関してそれぞれ64と128です。境界磁場分布と初期値の計算では球面調和関数をもちいずに直接法を用いました。絵は一番上のものと同様に太陽北極が真上にくるように描いています。



主要な文章更新:平成24年11月5日
日食後の文章修正:平成24年年11月19日
*) 上2つの図は日食当日まで毎日更新され、最終のものは北米太平洋時間で11月13日の正午過ぎでした。
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